東京高等裁判所 昭和29年(う)1145号 判決
所論は、本件ビラは具体的に桜井候補に投票を依頼する旨を記載したものではなく、日本共産党の政治活動として共産党候補者上村進の候補辞退を選挙民に知らしめ、同候補者によせられた支持と同情とに対し感謝の意を表すると共に、同党の公党としての立場からその政治的所信を披瀝したものであると主張する。しかしながら本件ビラを検討すれば、なるほど桜井候補者に投票を依頼するとの具体的文言こそないが、その文意は同候補者の当選を得しめるためにする意思を掲載表示したものであることは一読明瞭であるから、本件ビラは選挙運動のために使用する文書であるというに何ら妨げはない。しかして選挙運動のために使用する文書は、それを選挙のために使用することが主たる目的であらうと又は附随の目的であらうと総べて公職選挙法第百四十二条第一項によりその頒布を禁ぜられる。従つて政党その他の団体が日常の政治活動として文書によりその政治上の主義、政策を主張し又は時局に関する批判を表明することを主たる目的としたものであるとしても、これに附随して特定選挙における特定候補者に当選を得しめる目的たる意思を直接又は関接に表示掲載するときは、その文書は選挙運動のために使用したものであつて、かかる文書を頒布することは前記法条に違反するものとしなければならない。本件ビラは同法条に規定する通常葉書に該当しないことは明らかであるから、本件ビラの頒布の目的が仮りに所論の如くであつたとしも、前記法条に違反するものであることは言を俟たない。
しかして本件ビラの末尾に日本共産党下越地区委員会なる記載のあることは明らかであるが、原判決は右委員会の選挙運動を認定したのではなく又原判決挙示の証拠によれば、被告人両名はいずれも判示選挙に際し桜井候補者に当選を得しめる目的を以て、本件ビラを頒布したものであることを認めるに難くないから、原判決が被告人等の本件所為を公職選挙法第百四十二条第一項に違反し同法第二百四十三条第三号に該当するものとしたのは相当であつて、原判決には所論のような違法はない。論旨はいずれも理由がない。
(裁判長判事 大塚今比古 判事 三宅富士郎 判事 河原徳治)